物理探査

物理探査とは、自然あるいは人工的に与えられた物理現象の反応を専用の測定器で計測し、解析を行うことで地下の構造や各地層の物性値を推定・把握する技術です。

元来、物理探査手法は金属鉱物や石油・石炭などの資源分野で利用・発展してきた技術ですが、日本の高度成長とともにトンネル調査や活断層調査に代表される土木分野への活用が進み、今日に至っています。
物理探査は非破壊で地下の物性情報が得られることから、環境への負荷が少ない探査手法として注目されています。それに加え、観測機材や解析技術の高度化に伴って、近年では品質および経済性に優れた三次元構造分布が把握可能な調査も実施されるようになりました。
物理探査だけでも解析結果は得られますが、不確実性を伴うため、ボーリング調査や踏査などで得られる原位置情報など様々な情報と組み合わせて解析結果を評価することにより、より精度の高い成果が得ることができます。

当社は、石炭に代表される地下資源の開発から活断層調査での地下構造探査、土木構造物あるいは建築構造物を対象とした極浅層部までの様々な探査機器および解析技術を保有しており、豊富な実績を基に最適な調査計画・探査手法をご提案することが可能です。

反射法地震探査

反射法地震探査(以降、反射法と表記)は、人工震源によって地中へ微弱な振動を発生させると、その振動の一部が地層境界などではね返り、地表へ戻ってきます(反射波)。これら弾性波動を地表で観測し、データ処理することによって得られる断面図から地層分布や断層の位置などの情報を視覚的に把握できる探査手法です。

油圧式ミニバイブ振源
反射断面から解釈される断層分布

観測方法

反射法には二次元探査と三次元探査があります。二次元探査は主に道路沿いに測線を設定し、観測を行います。一方、三次元探査では測線ではなく、面的に振動を観測するため、ある程度広いエリアが必要となります。二次元探査の方が費用は安価ですが、把握できる地下構造は測線近傍の直下になります。三次元探査では探査エリア全域の地下構造を詳細に網羅できますが、実施にあたっては目的に合わせた入念な事前検討が必要になります。

二次元反射法測定イメージ
三次元反射法測定イメージ

適用分野

反射法は、防災関連事業である活断層調査や深部地下構造調査などで多く用いられていますが、地表下数十m程度の極浅層部地盤を対象とした土質調査に対しても有効です。
また、二酸化炭素地中貯留(CCS)において、二酸化炭素を貯留すると貯留層の物性値が変化します。物性値の変化が反射波の振幅変化として現れることに着目し、同地点で時系列の繰り返し探査を行うことにより、二酸化炭素の貯留状況を把握する手法としての利用にも期待されています。

微動探査

地震計とデータロガー

微動とは、風や波浪による自然現象あるいは産業活動に伴って常時発生している微小な振動のことを指します。微動探査はこの微動を高感度地震計で観測し、解析を通して振動数(周波数)により伝播速度が変化する現象(分散曲線)を捉え、分散曲線に整合するS波速度と深度を求めることで地下のS波速度構造を推定する探査法です。
ボーリング調査や大がかりな測定機材が不要でかつ地震計とデータロガーを設置しておくだけで観測できること、また非破壊で深度1,000m以上のS波速度構造が分かる利点から、土木分野において急速に実施事例が増えています。

観測方法

探査深度はアレイ半径に依存するため、把握したい深度に応じて地震計設置位置を事前に計画します。観測時間はアレイ半径に応じて変化し、半径が大きくなるほど長い時間が必要となります。
解析は、同時観測した観測データの組み合わせで計算される相関から分散曲線を算出し、分散曲線に整合するS波速度構造モデルを推定します。
微動アレイ探査は一次元解析であるため、得られる結果はアレイ中心位置付近における平均的なS波速度構造になります。

微動アレイ観測レイアウト
(正三角形二重アレイ)
微動アレイ観測状況

適用分野

探査地点が急傾斜地や観測点間の標高差が大きい場合などでは適用できない場合があるので、計画立案時に留意する必要があります。
得られた探査結果(S波速度構造)は地震動予測や耐震設計などに利用され、地震動評価を通して既設構造物もしくは構造物設計時の耐震評価に利用され、地震災害から構造物を守るために活用されています。

比抵抗電気探査

比抵抗電気探査(以降、比抵抗探査と表記)は、電気を地面に流し、その抵抗値を測定することで地盤の比抵抗分布を推定する手法です。地盤の比抵抗値は分布する地質状況、地盤や地下水分布の状態により変化します。
地盤の比抵抗分布を得られることを通して、地滑り面、地下の破砕帯・亀裂密集ゾーンや地下水に関する情報(地下水の流動状況・電気伝導度など)を把握することができます。

観測方法

比抵抗電気探査の概略図

比抵抗探査の観測は、設定した探査測線に一定間隔で電極棒(ステンレス棒)を打設します。設置した各電極棒はケーブルを介して電気探査装置と接続します。測定は自動でデータ収録が行われます。
また、複数の二次元探査測線データを元に三次元解析を行う省力型三次元探査という手法もあります。利点として、三次元探査よりも省力化できること、各測線単独で解析した場合、測線交点において比抵抗分布に食い違いが生じることがありますが、本手法では三次元解析により生じることがありません。なお、三次元解析する条件として、測線およびその周辺の3DDEM(Digital Elevation Model)データが必要となります。
さらに、ボーリング孔を2孔使用した比抵抗トモグラフィがあります。トモグラフィは2孔のボーリング孔内に孔内用電極ケーブルを設置し、ボーリング間の比抵抗データを取得し、孔間の比抵抗分布を把握することができます。ただし、比抵抗トモグラフィを適用するにはボーリング孔内水が必要となります。

適用分野

比抵抗探査は条件により比抵抗が変わる特性を利用して、様々な目的で適用されます。例えば、トンネル調査や活断層調査では破砕帯、脆弱部が低比抵抗帯領域として検出されます。地すべり調査では、地すべりの可能性がある地点は地盤が緩んでいることから比抵抗変化として捉えられます。また、比抵抗値は水により変化する特性を利用して、地下水分布の調査にも適用されます。
同じ調査地点で比抵抗探査を繰り返して行い、各データに対して時系列を考慮した解析を適用し、時間経過による変化を把握することで地盤内の水みちやゆるみを推定する比抵抗モニタリングを行っています。

空中物理探査

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空中電磁探査は『地下水の分布状況を把握』において最も効果を発揮する調査方法です。

地盤の土砂や岩盤は含水量や粘土分含有量などの状態によって地盤の『比抵抗』と呼ばれる電気的特性が異なるため、空中電磁探査によって比抵抗を調査・解析することで地盤状況を推定します。

地下の比抵抗分布を3次元的に測定・解釈することによって地下の地質状況を判定するものであり、広範な地域やアクセスが困難な山岳地域などにおける地質調査、地すべり調査、各種路線計画などに有効な調査技術です。

空中電磁探査測定システムの特徴

  • 空中から調査を行うため、調査地への立ち入りや土地改変を伴わず広い山地斜面でも効率よく地盤情報が取得できます。
  • ボーリングなどの点や電気探査など線的な地質調査ではわからない空間的(面的)地盤状況が推定できます。
  • 地下水の分布を3次元・広範囲で推定できます。

UAVによる空中電磁探査

  • 100~200m 程度(※条件により最大400m程度)
  • 普通山地で地上電気探査を実施する場合(たとえば測線長1km)では、コスト的にUAV空中電磁探査が有利です。
  • 2時期(豊水期・渇水期など)のデータ取得すると差分で対策の効果状況や地下水分布状況が視覚的に把握できます。
  • ヘリコプターによる空中電磁探査 深度200~250m程度 測線上約1m間隔で測定 水平分解能5~10m程度

ヘリコプターによる空中電磁探査

  • 深度200~250m程度
  • 測線上約1m間隔で測定
  • 2時期(豊水期・渇水期など)のデータ取得すると差分で対策の効果状況や地下水分布状況が視覚的に把握できます。
  • 水平分解能5~10m程度

適用事例

道路ルート選定調査

  • 不良地盤帯を避け、最適ルート選定によるコストを縮減

    道路事業の初期段階である予備設計や概略設計時に、不良地盤の分布を確認できれば、これを避けて良質地盤上に道路ルートが選定できるため、道路の建設工事・維持管理コストを縮減できます。また、問題点が絞り込めれば効率的な調査が実施できます。広域の地質調査に適した総合空中物理探査法は、道路ルート選定調査に大きな威力を発揮します。

  • 道路ルート選定の調査事例

    道路事業計画地には、不良地盤(粘土化変質帯)の存在が懸念され、本探査法が実施されました。その結果、不良地盤は低比抵抗領域(暖色部)として特定でき、Aルート上に広範囲に分布することが判明しました。このため、良質地盤を通過するBルートが選定されました。広域の地質状況が確認できる本探査法を事業の初期段階に導入することで、調査の効率化とトータルの調査費用の節減ばかりでなく、道路の建設工事及び維持管理におけるコストを縮減できました。

地すべり調査

  • 地すべりの位置・規模の把握による、効率的な対策工の立案でコストを縮減

    地すべりの調査では、斜面内部の情報を確認することが重要です。斜面内部の不安定要因を把握できれば効率的な調査・対策工が可能になります。総合空中物理探査法は、このような調査に大きな威力を発揮します。特に、粘性土地すべりに対して極めて有効で、潜在的に不安定な斜面の抽出ができ、斜面管理に有益な地盤情報を提供します。

  • 地すべりの調査事例(秋田県:澄川地すべり)

    広範囲に熱水変質(温泉)による粘土化が認められる澄川地すべりとその周辺地域は、低比抵抗(10Ω-m以下)を示し、不安定斜面であると予想されました。その後、A、Bの斜面でも地すべりが発生し、本探査法による不安定斜面抽出の妥当性が証明されました。また、比抵抗解析から想定された澄川地すべりのすべり面の深度は、ボーリング結果と良く対応したものとなり、地すべり地における斜面内部の調査手法として、本探査法の有効性が示されました。

道路防災調査

  • 地質データベースに活用し、効率的な構造物の維持管理

    道路の維持管理は、構造物の変状調査とともに周辺の地盤性状を加味した地質データベースを用いることで効率的に実施できます。路線全域の不良地盤を抽出し、地質データベースとしての活用が期待される調査手法として、総合空中物理探査法が非常に有効です。

  • 道路防災の調査事例

    泥流堆積物及び凝灰岩は、低比抵抗領域(暖色部)に対比されます。比抵抗から判断して、いずれも粘土化が著しく、地すべりを起こしやすい不安定な斜面であると予想されます。実際、国道沿いの低比抵抗領域では多くの変状が報告されています。
    断面図は、湯殿山スキー場において融雪期に発生した地すべりの比抵抗解析例です。比抵抗解析で得られた地すべりの厚さ、移動土塊と不動岩盤の性状の違いは、ボーリング結果と良く対応したものとなり、本探査法の妥当性が証明されました。

ダム地質調査

  • ダムサイト及び貯水池周辺の地質状況把握による全体計画の効率化

    総合空中物理探査法は、広範囲にわたる高精度の地質調査を迅速かつ低コストで実施できるため、調査対象が広範なダム地質調査に適しています。ダム建設関連全域の地質状況を視覚的に捉え、ダム軸はもとより貯水池周辺の地すべり調査、原石山の評価や付替道路の選定調査に大きな威力を発揮します。

  • ダム計画地での調査事例

    河床沿いに低比抵抗領域が、左右岸には高比抵抗領域が分布しています。これは、ボーリング等で確認された地盤性状と良く対応したものとなっています。このことから本探査法は、地盤性状の確認に適しているといえます。
    骨材の正確な賦存量を確認する原石山の調査には、高い精度が望まれます。地形の影響を大きく受ける通常の電気探査では、その結果に偽像が出現するなど、地盤性状を正確に把握することは困難です(上画像・下)。しかしながら、本探査法では地形の影響を受けず、かつ3次元的に地盤性状を正確に確認できるため、有力な調査手法といえます。

地下水汚染調査

  • 産業廃棄物不法投棄サイト等の地下水分布から汚染区域を特定

    地下水汚染対策は、汚染物質の特定とともにその汚染範囲を明確にすることが必要です。電解質を多量に伴う汚染現場の場合、3次元的な汚染範囲の特定には比抵抗異常を探知する総合空中物理探査法が、大きな威力を発揮します。

  • 不法投棄サイトでの調査事例

    産業廃棄物不法投棄サイトにて実施した本事例では、産業廃棄物自体が低比抵抗異常を示し、かつ汚染地下水を反映した比抵抗分布が広がっています。断面位置付近の低比抵抗領域(赤色部)は、推測されていた不法投棄サイトに対応します。汚染範囲は、比抵抗データから予想以上の広範囲におよんでいることが推定されました。
    廃棄物自体の比抵抗はその含有物によって必ずしも低比抵抗でないものもありますが、汚染水は低比抵抗を示すため、正確にその分布範囲を特定することができます。

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