多自然魚道

籠川多自然魚道

自然景観に配慮した多自然魚道の設計

籠川多自然魚道は、愛知県豊田市を流れる一級河川籠川に設計された魚道です。それまでは、矢作川の合流点から約4kmの地点に床止め工(写真-1)があり、水生生物の移動(遡上、降下)を阻害していました。
そこで、魚道を設計する際に、事前の魚類調査を実施し、一般的に対象とされるアユだけでなく、遊泳力の弱い魚や底生魚など、籠川に生息する多様な魚種にも対応できるよう配慮しました。落差は一段当り30cm以下にしたことに加え(写真-2)、踏み段状に配置し、ジグザグのコースを選択可能にすることでさらに落差を低減させました。さらに、魚道の形状は、魚類が休憩しながら遡上でき、降下時に体を痛めないように、プール部を持つものにしました。また、魚道の構造は、石材同士の隙間を底生魚が移動できるように石積み構造とし、石の裏込めにはコンクリートを使用することで強度も高めています。
その他、景観上は、魚道部分の勾配(1/10)の土砂水理現象に整合するように、対象区間より少し上流に見られるような瀬を模した魚道とすることで、自然景観に近づけるよう努力するとともに、本区間における多自然川づくりの計画の中で、魚道部分に生態学上の瀬の機能(写真-3)を、最下流に淵の機能(写真-4)を持たせました。
今後、時間の経過とともに魚道の左岸側の砂州部分には、植生が生育することで、柔らかな景観が創出され、動物の生息空間となることも考えられます。また、河川の侵食・堆積作用により、徐々に魚道周辺の河床の形も変化していくこととなります。

写真-1 施工前の床止め工(落差=1.4m)
写真-2 魚道施工後(1段当たりの落差=0.3m以下)
写真-3 越流部とプール部
写真-4 魚道下流に創出した淵

追跡調査の結果

2007年10月に追跡調査を行いました。魚道の形状、流速、水深ともに、設計の意図通りの値が計測できました。また、遡上調査では、以下のような魚介類を確認しており、底生魚やオイカワの小さな幼魚など、遊泳力の弱い魚の遡上も確認しました。

遡上調査で確認された魚介類

オイカワ
カワムツ
タモロコ
カマツカ
アユ
カワヨシノボリ
モクズガニ

魚介類調査協力:有限会社 河川生物研究所

竹原川魚道

国土交通省のHPに「多自然川づくり」優良事例として、竹原川の魚道が選ばれました。

インフラの老朽化を防ぎ、再活用した魚道

岐阜県下呂市を流れる竹原川では、砂防の床固工(治水施設)が設置されており、河床を守る目的や利水の目的は果たしていましたが、その落差により、魚類が移動出来なくなっていました。そこで、これらの床固工や取水口は、老朽化を防ぐために補修を加えるなどして活用しつつ、床固工の上部に石組みの魚道を施工しました。

川と生活 -文化景観-

江戸時代、本川の飛騨川では豊富な木曽の材木を江戸、京都、名古屋へいかだを組んで運んでいました。このような産業利用以外にも、治水・利水施設が出来る前の竹原川では、住民と河川の距離がより近く、洗濯、野菜の洗浄、魚釣り、水泳等、日常的に河川が利用されていたと推測されます。このような、自然と人間生活の関わりの中から地域特有の文化が生じていたと考えられるため、これを保全することを試みました。ここでは、民家の前に設置された階段と根固工をなるべく近づけることにより、住民が河川をより利用しやすいよう配慮しました。

河岸の岩陰を表現する土佐積み

自然の河岸は、洪水の力により岩盤の下側がえぐられて、魚が隠れる事の出来る岩陰が有ります。これを魚道の側岸に再現するため、崩れ積みの一種である土佐積みを採用しました。この積み方は、石材がオーバーハングしたようになり、岩陰を表現できる高知県独特のものであるため、高知県から石工職人さんを現場に招き、実現しました。
職人の技術は、その人の身体感覚を通して発揮されるため、その感覚を磨くために長年の修行が必要です。自分の体という自然と向き合い、技術を追求する事により、自然への尊敬の念や高い精神性が養われます。

侵食・堆積作用を活用した生息場所・産卵場の造成

床固工と下流の河床との落差を解消するため、2基の帯工を施工しました。この帯工の形状は、下向きのアーチ形状として水を集めて帯工の下流側を洗掘させて淵を創出するとともに、その下流に土砂を堆積させて、竹原川に生息するカジカ・アカザ等の礫間に生息する魚類の生息空間とする事を目指しました。
また、帯工を構築する際に、コンクリートを用いていないため、堆積した土砂から帯工下流の淵に向かって浸透流が発生すると思われ、この部分に水質浄化の機能や産卵場としての機能が期待できます。

魚類調査&底生動物調査

設計を行う前に、文献調査や現地調査を行い、魚類の生息状況を確認しました。その結果、魚道を設置する事により移動阻害を解消するだけではなく、アマゴのための深い淵、カジカのための大きな礫の有る環境、アカザ、アジメドジョウ等のための、侵食・堆積によるふわっとした礫の環境、川岸の岩陰の環境、ステップ&プールの瀬と淵等が不足している事が分かりました。そのため、前述のとおり、これらの環境を創出する計画としました。

市木川魚道

都市河川における住民との協働

かつて水車が回り、洗濯、水浴に大切に使われていた市木川は、昭和47年の災害により改修され、今の姿になりました。急速な都市化による水質悪化を下水・浄化施設で改善した上で、街のシンボルである市木川を子や孫に「ふるさと」として残したいという思いから市木川美化ボランティアの会が設立されました。愛知県では、この会の意見を取り入れ、既設落差工の上に石組みの魚道を設置しました。

阿妻川魚道

侵食・堆積作用を利用した生息空間・産卵場の造成

阿妻川では、帯工下流の護床ブロックが流され、1m程度の落差が生じていました。既存の施設である帯工を壊さずに、この落差を少なくして魚がのぼれるようにするため、1段当たりの落差が30cm程度の石組みの帯工を3基追加しました。

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